SPECIAL INTERVIEW

Reol×Giga「DDD」放談

  • 『BLACK BOX』のリードトラック「DDD」はReolが旧知の仲であるトラックメイカー/音楽プロデューサー・Gigaと約2年ぶりにタッグを組んだ楽曲だ。久々の共作が実現したタイミングで、ReolとGigaが、「DDD」のこと、お互いのクリエイティブのこと、ニコニコ動画時代のこと、様々なことを語った。

  • Reolさんのニューアルバム『BLACK BOX』のリードトラック「DDD」はGigaさんと久しぶりにタッグを組んだ曲ですね。

  • Reol

    共作するのは、2021年にリリースした「Ms.CONTROL」以来2年ぶりくらいですね。1stフルアルバム『事実上』、2ndフルアルバムの『金字塔』ではGigaにもクリエイティブに沢山尽力してもらいましたが、『金字塔』というアルバムができたあたりでReolとしてひとつ到達した感覚があったんです。ニコニコ動画時代から切磋琢磨しながらずっと一緒にやってきて、お互い他のフォームを知らないところがありました。それで、『金字塔』あたりから「他のクリエイターと組んだお互いのクリエイティブも見てみたいね」って話をしてたんですよね。それで私は今作にも参加してくださっているケンモチヒデフミさんやMasayoshi Iimoriをはじめ自分が気になっていたクリエイターたちとも共作をはじめました。Gigaと共同でない創作を反復する時間があったことで、自分も知らない自分の領分を知ることができた。それはお互いにそうなのかもしれないですが。そういう経緯があったので、またGigaと一緒にやるならGigaである必然性がある時に声をかけたいなと思っていました。「DDD」はトラック先行で組んだんですが、「久しぶりにGigaとやるならどういう曲が良いんだろう?」と考えた中で、「レゲエをポップに落とし込んだようなアプローチはこれまでやったことがないし、未知の曲になるんじゃないかな」と思って、レゲエ調の曲をリファレンスとしてGigaに送ったんですよね。

  • Giga

    そのリファレンスが送られてくる前に全然違うトラックができてたんですが、「久しぶりに一緒にやるのに、このトラックだと暗すぎるよね。憂いを帯びてるよね」っていう話になった(笑)。

  • Reol

    (笑)そう。めっちゃ暗いわけでもないんですけど、ちょっと切なくてね。

  • Giga

    それで、「2人でやるなら昔みたいにポップなのがいいかな」と思って、「DDD」は結構激しめの曲にしました。こういうリズムは前からやってみたかったし、良いものになったと思うので反応が楽しみですね。

  • Reol

    レゲエを軸に結構お互いがやりたいようにやりました。後からGigaが少しアコギ調になった後に間奏が入ってくるパートを入れてくれたり、Y2Kっぽさがあったり。全体的にはすごくスムーズな制作でした。

  • イントロにバイクのエンジン音が入っていたり、音の情報量としても多めですよね。

  • Reol

    笛を鳴らしたりね。

  • Giga

    そう、元気を出したかったからね(笑)。だから効果音も多いのかもしれない。

  • 長年一緒にやってるからこそのスムーズさは実感しましたか?

  • Reol

    阿吽の呼吸みたいなものは感じましたね。LINEでやりとりする中で、そこまで言葉で説明しなくても、ニュアンスで会話できる。ただ、2年空いたからこそ、青春っていうテーマで作詞をしたところはありますね。

  • 最初のヴァースでいきなり〈Giga Reol 任せな乗っかれ〉というリリックが登場しますよね。

  • Reol

    ずっと一緒に制作してたら、その状態が当たり前すぎて出てこなかった歌詞でしょうね。原点回帰の感じもありました。最初に一緒に作ったのがボカロ曲の「ギガンティックO.T.N」っていう曲で、本気でめちゃくちゃふざけて作ったんですよね。「DDD」もそれに近い感覚で制作が進みました。でもふざけてるんだけど普遍的なことを歌ってる。アルバム全体のことも考えながら作った曲で、聞いてもらった第一印象に軽やかさを持たせたかった。

  • 「DDD」をアルバムのリードトラックにしたのはどういう思いがあったんですか?

  • Reol

    『BLACK BOX』っていうアルバムには“何が入ってるかわからない箱”っていうテーマがあって、それを象徴するような曲。その曲はポップな曲であってほしいという気持ちはありました。「DDD」のリファレンスはレゲエなので王道のポップではないかもしれないけど、“個性的だけどみんながわかる”感じにはしたかったんですよね。

  • Giga

    「DDD」は歌い上げる系のサビでもないし、反応は未知数ですね。でも作ってて、Jポップに縛られない楽しさを感じたし、面白い曲になったと思います。

  • 〈Giga Reol 任せな乗っかれ〉というリリックにも表れていますが、この二人なら間違いない感も漂ってる曲ですよね。

  • Reol

    そうですね。あと、いろいろなトラックメイカーと曲を作るようになって、自分の味方みたいな人は増えていきましたが、アマチュア時代から一緒に上がっていく経験を共にした存在はユニットを組んでいたGigaとお菊しかいないので、やっぱりGigaと一緒に曲を作るのは私にとって特別なんですよね。Gigaが他のアーティストと組んで、Gigaの音が世の中に広く伝播していくのを見るとすごく嬉しいですし。「DDD」の歌詞にはレゲエ用語が使用されてて〈あんたがBREDDA〉っていうのは、“仲間”とか“親友”っていう意味なんですが、ここは完全にGigaが引き出してくれた言葉です。曲を作ってる当人がどこまで曲の世界観に酔えるかで曲の伸びしろって決まる気がするんですよね。私〈Yah Man〉とか言ったことないですが、言いたくなるくらい「DDD」のトラックには乗せられたところがありました。

  • Gigaさんは「DDD」の歌詞を見てどう思いましたか?

  • Giga

    最近のReolさんの歌詞は結構影のある内容か、自分もリスナーも鼓舞する感じが多かったけど、この曲は久しぶりに元気だし、少年っぽさがあっていいなと思いました。

  • Reol

    (笑)確かに、ここ最近リードトラックになっていた曲とか、アニメ『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』のエンディングテーマになった「切っ先」とか、寄り添うようなテーマが多かったので、弾けたい衝動みたいなのがたまっていたところはあったかもしれない。それがGigaのトラックに乗せられて一気に弾けたところはありますね。でも、これが私の本質ではない気がしています。めゃくちゃドーパミンを出せた時はこうなれるけど、基本的にはそんなに勝ち気でもないんですよね。だからこそ、勝ち気なリリックを書いて歌に引っ張ってもらう。強く見られるっていうことは呪いでもあって、だけど同時に理想が自分をその土俵にあげてくれるときもある。でも「DDD」はもはやどう思われるかっていうことをあまり考えずに、ギュって絞ってバッと出したみたいな歌詞かもしれないです。

  • Gigaさんは、ご自身が関わっていないReolさんの曲は随時チェックしてるんですか?

  • Giga

    そうですね。「自分が関わらないとどういう曲を作るのかな」という気持ちで結構チェックしてますね。

  • Reol

    私も同じようにGigaの曲をチェックしてますね。

  • 2020年に「Q?」がリリースされた時、Reolさんが「Gigaの音はもう身体の一部みたいな感じだよ」とSNSにポストされていてぐっと来たんですが。

  • Reol

    逆に言えば他の身体を知らなすぎるし、GigaもGigaで私以外の言葉や歌が乗っかっている状態は未体験ゾーンでした。だからこそ、お互いにこの2年間でいろいろと回収できた上で集合してるので、その間に学んだこともすごく活きているだろうし、他ではできないことを「DDD」でできた感じがありますね。多分他のアーティストやクライアントからのオーダーで「レゲエでY2Kっぽさもあって」っていう内容は来ないと思いますし。自分たちのタイミングで全部を好きにやったからこそできた曲だと思う。

  • ユニットとしてのREOLは2017年に“発展的解散”という形を取りましたが、その後お菊さんも含めて、実際に3人とも発展的な活躍をされています。それについてどう思いますか?

  • Reol

    アマチュアの状態から3人一緒に頑張って、プロになったようなタイミングで結束を解いてみたわけなんですが、今でも全員がコンスタントにクリエイティブを続けているっていうのは「みんな心底クリエイターなんだね」っていう気持ちになります。残るべくして残っているんだろうし。3人ともものを作ることに喜びや使命感を持っている。私が「今回のライブはお菊に映像を頼もう」とか「今回はGigaと曲を作ろう」っていうような活動ができるのは、2人が続けてくれているからこそ。その状況に感謝していますし、大事にしていかないといけないなって思います。続けてるっていうだけで偉いと思っています。

  • Giga

    それは思う。

  • Reol

    あと、Gigaもお菊も変わり続けているのでリスペクトしています。だからこそタイミングが合えばまた一緒に何か作りたいと思わせてくれる。

  • Giga

    うん。それぞれひとりで頑張ってて偉いなって思いますね。

  • Gigaさんも最近ではTeddyLoid さんとAdoさんの「唱」の作曲と編曲を手がけたり、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 NEXT SKY』挿入歌の「Go Our Way!」を手掛けたり、幅広く活躍されていますが、ユニット解散時にはご自身の活動の幅を広げるビジョンはあったんですか?

  • Giga

    いや、当時は「ユニットの曲だけやってればいい」と思ってて、自分自身やりたいことはなかったんですよね。それで解散して2~3年はReolの曲しか作ってなくて、その後ひとりになって。3人の時は良いことも悪いことも、何を言われても自分に言われている気があまりしなかったんですが、ひとりになってからは全部が自分の責任なので、そこで自我が芽生えたんですよね。

  • 例えば、良いことを言われたら自信が生まれたり、悪いことを言われたら悔しさを感じたり?

  • Giga

    そうですね。最近ようやくそういうことを感じるようになったかもしれないです。本当に嬉しかったり、本当に悔しくて「頑張ろう」と思ったり。だから、今4歳半ぐらいです(笑)。

  • Reol

    (笑)。

  • ReolさんはGigaさんの活躍をどう見てらっしゃいますか?

  • Reol

    今以上にニッチでもの好きしか見ていない時代のニコ動においてGigaの作る音ってJポップにはあまりない実験性があったし、洋楽とも違う独自性がありました。だから、サブカルで終わらない強度がすごくあると思ってました。本人は絶対に努力はひけらかさないタイプですが、人一倍血が滲むような努力を、マウスを持ちながらしていて。

  • Giga

    (笑)。

  • Reol

    (笑)且つ、その努力を活かす才能にも恵まれているし。何にも縛られていない型のない音楽がJポップシーンにもあっていいと思うんですよね。自分がボーカルという形を取るのが、Gigaの音楽を一番引き上げられると思っていたので、Win-Winみたいな気持ちでユニット活動はやってたんですよね。3人の中では一番Gigaが引っ込み思案タイプですが、世の中に見つかってしまいさえすればきっとずっとこの音が聴けるのではないかと。結局私がGigaとお菊の一番のファンでもあると思うんです。だから、Gigaのサウンドがいろいろなところに刷り込まれていくのはすごく気持ちが良いし、嬉しいです。友達としてもここまで音楽でフィールした人間ってGigaだけですし。

  • 結果的にTHE FIRST TAKEで披露したReolさんの代表曲である「第六感」もGigaさんとの曲ですよね。GigaさんはReolさんの節目にいる存在でもあるんだなと思いました。

  • Reol

    本当に恵まれてるなって思います。10代の頃に出会った時はただの友達で、たまたまダラダラと喋る仲になって、遊びで曲を作ったらあっという間に世の中に広がっていった。一番の友達とふざけて作ったものが世間から「良い」って言ってもらえることってあまりないと思うんです。だからこそ、作詞面においてGigaが作ってくれた音に乗って、思い切って歌詞が書けるところもあります。

  • 「DDD」には〈とまらん とまれねぇわ〉というラインがありますが、「第六感」には〈このまま何処までいけるの〉というラインがありますよね。

  • Reol

    そうですね。Gigaと知り合った頃、私もっとイケイケだったんで(笑)。

  • Giga

    (笑)。

  • Reol

    歳を重ねて丸くなった部分は多少あると思います。本質は変わってないと思いますけど。最初の頃の方が全く物怖じせずGigaに話しかけに行って「もうこれ曲にしなよ!」とか言って、基本言い出しっペって感じでした。だから、Gigaと曲を作ってるとその頃の自分に戻る感覚はありますね。

  • Giga

    出会った頃のReolさんは何をしでかすかわからない怖さがありましたね(笑)。変なこと言ってくるし、打ち合わせに来ないと思ったら家で倒れてるし。

  • Reol

    それは貧血だから(笑)。大人になったよね。

  • Reolさんは作詞作曲プロデュースだけでなく、ファッションやビジュアルもセルフプロデュースされていますが、そういうマルチな活躍をGigaさんはどう見てらっしゃいますか?

  • Giga

    昔は頑なに2人で曲を作っていたので、人付き合いができるようになったんだろうし、できることが増えて良かったなと思います(笑)。

  • Reol

    (笑)私も、東京でGigaが友達と遊んでる写真とか見ると、「東京にも友達ができて良かったな」って思います。

  • Gigaさんは今後Reolさんと一緒にやってみたいことはありますか?

  • Giga

    最近、ボカロをやりたい欲が出てきたんですよね。だから、ボカロ曲に作詞を頼みたいと思っています。

  • Reolさんの歌詞のどんなところに惹かれますか?

  • Giga

    一度聞いただけでは何を言ってるかわからないんだけど、実際歌詞を見ると言葉がどんどん入ってくるところですかね。

  • Reol

    ああ、音としてってこと?

  • Giga

    そう。言葉が音っぽい。「SCORPION」の歌い出しの〈やった分その才覚引き出す〉っていうところとか、最初何言ってるか全然わかんなかったけど、歌詞見たら「え、かっこいいじゃん」って思った。難しいけどかっこいい言葉を入れるところが良いですよね。

  • 字面で見た時もかっこいいですよね。

  • Giga

    そう。他の人はあまり使わないような言葉を入れるし、頭の良さが垣間見えます。

  • Reol

    中学の時とかこじらせてたんで、朝の読書時間に国語辞典を読んでたんですよね(笑)。でも、フェチだと思います。多分Gigaが音フェチでいろいろなサンプルパックを買って聞くのと同じで、日頃から「この言葉良いな」と思うものをストックしてる。たまたま自分のセンサーがそういうところにめっちゃ敏感だったのはラッキーでしたね。

  • お2人が一緒に作った曲で特に思い出深い曲というと?

  • Reol

    やっぱり最初に自主盤で作った『No title +』『No title -』は思い出深いですね。Gigaとお菊は上京前で、用事の度に東京に来ている状況で。その後、毎日のように会って作ったのが『極彩色』。そこで、初めてレコーディングスタジオに行ってみたり。でも「宅録とあまり変わらないね」「むしろ宅録の方が自由にやれたかもね」みたいな会話をしたことを覚えてます。だから、いろいろなことを一緒にトライしていた頃で。Gigaが最後まで上京して一緒にがっつり音楽活動を始めることを躊躇ってたんですけど、お菊が上京したことをきっかけに「うちも東京の部屋を探します」っていう連絡が来て、実際上京してきた時は、「こんな漫画みたいなことがあるんだ!」と思ってすごく嬉しかったです。そこから3人で作品を作り続けて、今ではお互いの名前をいろいろなところで見かける。「マジ漫画じゃん!」って今でも思います(笑)。

  • Giga

    うちはやっぱり「ギガンティックO.T.N」かな。それまでほぼ曲を作ったことがなくて、でも「ギガンティックO.T.N」はめっちゃスムーズにできた。初めて曲作りの楽しさを感じた曲かもしれない。

  • Reol

    「曲って作れるんじゃん!」って思ったし、ニコ動に投稿した翌々日くらいには有名歌い手と呼ばれる人たちがカバーを上げてくれたりして、「マジで?」って思ったよね。

  • Giga

    バズったよね。興奮して毎分ツイートしてた記憶がある(笑)。

  • Reol

    (笑)そうそう。

  • その話を聞いた上で「DDD」を聴くと、より沁みますね。

  • Reol

    Gigaと出会った頃はまさに青春時代でしたけど、その頃は渦中だから自分がどういう状況にいるかわからないし、青春をテーマに曲を書こうと思わないですよね。やっぱり今だから書ける曲だし、私たちのスキルも増えたからできるサウンドアプローチでもある。「ギガンティックO.T.N」を作ってた頃の自分たちに聴かせたいですね。どんなことを言われるのかが気になります。

  • Giga

    こんなポップな曲を作っているとは想像できないかもしれない。ボカロのアプローチでしか作ってない頃だからね。

  • 2人で今後作ってみたい曲はありますか?

  • Reol

    まずは『BLACK BOX』で温存した憂いの曲をやりたいですね。お互いの個性を一番知ってるはずなんだけど、それでもGigaは自分が知らなかった引き出しを開けてくれるんですよね。未知の化学反応が起こるところがGigaと一緒に曲を作ってて一番面白いですね。あと、「めっちゃ良いんですけど!!」って思って送ったものを「めっちゃいいです!!」みたいな感じで返してくれた時に「だよねー!!」ってなる。そのラフな感じのやりとりって、ビジネスをきっかけに知り合うと「いいじゃん!」って言っていいのかな?って探ってしまうところがあるんですが、Gigaとはそういう探り合いをしたことがないから、今でも童心に返って作れるのが楽しいです。今後も一緒に作っていきたいですね。

  • Giga

    はい。

  • 即答されましたね(笑)。おかげさまでとても良いお話が聞けたと思います。

  • Reol

    こんなにしっかり取材で話したことないよね?

  • Giga

    自分が昔はもっと喋れなかったから。

  • Reol

    ああ、『Σ』の頃のインタビューとか、Gigaの発言全部集めてもほんのちょっとだった(笑)。

  • Giga

    (笑)前より喋れた。だから今4歳半。

  • Reol

    4歳半、押し過ぎ(笑)。

  • Text: 小松香里